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高知地方裁判所 昭和40年(ワ)174号 判決 1967年9月19日

主文

昭和四〇年(ワ)第一七四号事件について、原告等の請求を棄却する。

同第一七六号事件について、原告の請求を棄却する。

訴訟費用は同第一七四号、第一七六号事件を通じて、これを三分し、その二を同第一七四号事件の原告等の、その一を同第一七六号事件の原告の各負担とする。

昭和四〇年(ワ)第一七四号事件の事実

第一(原告等の申立)

被告等は連帯して原告等に対し、各金三〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(原告等の請求原因)

一、原告等は安芸郡奈半利町字若杉甲一、三六九番二山林五一町七畝二五歩の山林(以下本件山林と称する)につき、訴外安岡朝治外一九五名とともに、昭和二四年一〇月四日高知地方法務局田野出張所受付第八九六号による登記手続をなし、同年二月一日付自作農創設特別措置法第四一条ノ三第一項の規定に基づく売渡を受け、右山林に対し各均等の共有権を有する者である。

二、ところが、右山林中の一部たる約一三町歩の地域には、従前より樹令約四〇年生の杉及び樹令六・七〇年に及ぶ濶葉樹が生育していたところ、被告竹崎権之進は前項の土地共有者を代表する者なりと僣称して、昭和三六年三月二〇日右山林内立木中、境界木を除く杉立木並びに欅立木を除く濶葉樹一切(以下係争立木と略称する)を、被告有限会社丸仁商店(以下丸仁商店と称す)に対し、代金八五〇万円をもつて売却し、右被告丸仁商店は、昭和三六年(ヨ)第五号不動産仮処分命令を得て、原告及び訴外浜川重蔵、安岡正明、野村伊佐雄、柿内馬吉、柿内作馬等の係争立木所在地域への立入及び該立木の伐採造材集材搬出等の事業の妨害を禁止したる上、自ら恣に係争立木を伐採造材集材搬出を敢行し、現在右各事業は終了するに至つた。

三、しかるに、本件係争立木の売却に関する共有者総会は、昭和三六年旧歴正月一五日に行なわれたものであるが、右総会において原告等は極力右立木の売却に反対したのに拘らず、被告竹崎権之進は共有者過半数の同意を得たと称して、右売却を決定したけれども、右決議は次の如き不法があるものである。

(イ) 本来右山林の処分については、当然右共有者全員の合意によつてなさるべき筈のところ、右山林の処分については被告等は所謂部落総会の合意によつて決したものであつて、不法の決議である。

(ロ) なお仮りに過半数の同意で足りるとしても出席者総数一〇四名(委任状を含む)中には、共有権者にあらざるもの三四・五名が含まれており、しかも採決の際賛否不明の者が約三分の一以上あり、賛成者は七〇名以下となるので、該員数は共有者総人員一九六名の過半数に達する賛成は得ていない。

(ハ) しかるに、被告竹崎が議長として作成した議事録によれば、出席者全員が賛成したかの如く記載さられるも、賛否の員数はいずれも記載なく、議事録署名訴外門田雅広は、共有権者でなく、右議事録は虚構の記載であり、該決議は無効である。

四、被告丸仁商店は、係争立木につき原告等が売却に反対している事実を知悉し、該立木売却の決議が無効のものたる事実を知りながら、被告竹崎と通謀してこれを買受け、かつ第二項記載の仮処分申請人となつて、仮処分命令を受け、伐採搬出を敢行した者である。

五、しかも係争立木代金は、その売却当時においても価格三〇〇〇万円を下らず、かつその伐採期を約二〇年早からしめたるための損害もまた同額程度と推定せられるので、共有者一人あての蒙つた損害は、まさに金三〇万円となる次第である。しかして、右の損害は、被告両名の共同不法行為に基づくものというべきであるから、原告等は被告両名に対し、右損害の賠償を求めるため、本訴に及んだ次第である。

六、仮りに奈半利町旧郷分に、部落有の山林を所有した事実があつたとしても、それは該部落有山林の処分によつて部落有の関係は消滅しており、該処分山林に代えて部落有山林を所有することは、地方自治法第二九四条に関する行政実例として示された

「町村の部落は、従来財産を有すると否とを問わず、法令に別段の明文ある場合の外、新たに財産の譲受けをなすことを得ざるものとする。」(帝国行政学会発行地方自治関係実例判例集四五三頁)

というに違背するので、なし得ないところであるから、旧郷分の所有ではない。

七、なお、本件山林が旧郷分部落、即ち財産区のものであるとすれば、該財産区の財産の処分は、地方自治法第二九六条の五及び地方自治法施行令第二一八条の二の規定する目的方法によつて処分せらるべきものであるに拘らず、本件山林の処分は、上記の法条の趣旨を没却する違法の処分であつて、これまた当然無効の処分である。

第二(被告等の申立)

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

との判決並びに被告敗訴の場合は、保証を立てるを条件として仮執行の免脱を求める。

(被告竹崎権之進の答弁)

一、原告等の請求原因事実第一項中、本件山林については、安岡朝治等一九六名が、昭和二四年二月一日自作農創設特別措置法第四一条ノ三第一項に基づく売渡により、所有権を取得したとして、同二四年一〇月四日高知地方法務局田野出張所受付第八九六号をもつて所有権取得の登記がなされていることは認めるが、その余は争う。

二、第二項中、右山林の一部約一三町歩に樹木が生育していた事、被告竹崎が代表者として右係争立木を昭和三六年三月二〇日被告丸仁商店に、金八五五万円で売却した事、丸仁商店は原告主張のとおり仮処分命令を得て執行し、右買受目的立木を伐採搬出した事は認めるが、その余は争う。

三、第三項中、昭和三六年三月一日(旧正月一五日)の本村郷分総会(共有者総会ではない)における決議により売却した事、右決議に当り原告広末亀太郎、竹崎茂久一、広末信喜が売却に反対した事は認めるが、その余は争う。

四、第四項中、被告丸仁商店が仮処分命令を得て執行し、係争立木の伐採搬出をした事は認めるが、その余は全部争う。

五、第五項は全部争う。

(被告丸仁商店の答弁)

一、原告等の請求原因事実第一、二項については、被告竹崎の答弁と同じである。

二、第三項は不知。

三、第四、五項については、被告竹崎の答弁と同じである。

なお、被告は奈半利町本村郷分代表者竹崎権之進より、本件立木を買受けたもので、不法に原告の権利を侵害してはいない。

(被告両名の主張)

一、安芸郡奈半利町旧郷分には七部落があり、それ等は集つて本村郷分と称し、入会地として山林約六〇〇町歩等を所有して来た。

そして一部を、右七部落に占有使用せしめ、その大部分は本村郷分が占有使用して来た。

二、(1) 本村郷分では慣例として、毎年旧正月一五日に氏神様である多気坂本神社で、郷分の通常総会が開催せられ、(又必要のある場合には臨時総会を開く)前記所有山林等の財産の管理、立木の売却、その代金の分配、税金の支払い、多気坂本神社の神官の給料等本村郷分関係事項を決議し、かつ扱人と称する代表者を選挙する。そして選挙せられた扱人は、郷分の七部落選出の総代の協力を得て、本村郷分代表として事務を執行することとなつている。

(2) 本村郷分居住者で一戸を構えた者は、右総会に出席し、決議に加わり、また分配金の配分を受ける権利がある。そして権利者の子孫にして、分家し、本村郷分に居住して、一戸を構え公私の負担をする者は、権利者となる。

権利者である居住者が、他に転住したときは、権利を失ない、転住者が帰郷した場合は、権利を回復する。

新たに他所から本村郷分に転居して来た者が、新たに権利を得んと欲する場合は、総会にはかり決定する。

(3) 以上の事は、一部規約も存在するが、昔からの慣習によつて定まつている。

三、昭和二二年頃、高知県より、右本村郷分の占有使用している入会山林のうち、七六町七反を開拓地として譲渡の交渉があり、これが代替として、高知営林局管内国有林である本件山林の譲渡を受ける話しが出来、昭和二二年七月高知県知事は、前記本村郷分山林七六町七反を自作農創設特別措置法に基づき買収し、その代りに本件山林を昭和二四年二月一日本村郷分住民である安岡朝治等一九六名に対し、自作農創設特別措置法に基づいて売渡した。

そして売渡条件として、部落薪炭林として共有すること、他の用途に利用しないこと、転貸しないこと等の三条件が付せられ、右条件に違反する時は、売渡は取消し得ることとなつている。

四、右の次第で、右本件山林は、本村郷分所有の入会山林が国に買収される代替地として、同郷分の入会地とする目的で売渡されたものであることは、右売渡の三条件を見れば明らかである。そして売渡を受けた者の名義は、形式上は安岡朝治外百数十名であるが、それは入会地については登記手続ができないので、手続上の便宜のためやむをえずなされたもので、真の売渡を受けた者は、入会権の主体であるところの本村郷分である。

したがつて、右売渡を受けた山林の使用収益管理についても、本村郷分が従来使用収益管理して来た山林と共に、本村郷分所有の山林として取扱つており、数年前その立木の一部を売却した際にも、従来の慣行にしたがい、総会において売却を決議し、その売得金を慣習通り、登記簿上名義がなくても、慣習による権利者と認められる者に対し分配されたことがある。

五、右本件山林のうち係争立木につき、昭和三五年八月六日の臨時総会において売却問題を取りあげ、調査の結果により売却することを決議し、右決議に基づき立木の伐期そのたにつき十分な調査を遂げ、その売却が適当であると判断し、昭和三六年三月一日(旧正月一五日)の総会において、出席権利者の大多数をもつて売却を決議したので、扱人上被告竹崎は、同月二〇日入札の方法により被告丸仁商店に金八五五万円で売却し、その売得金は従来の慣習に従い権利者に配分したものであつて、被告等にはなんら非難さるべき点はない。

昭和四〇年(ワ)第一七六号事件の事実

第一(原告の申立)

被告等は原告に対し金二〇〇万円及び昭和三八年七月四日より右完済にいたるまで年五分の割合の利息を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決並びに保証を立てることを条件とする仮執行の宣言を求める。

(原告の請求原因)

一、安芸郡奈半利町旧郷分には七部落があり、それ等は集つて本村郷分と称し、山林約四六二町歩を所有してきた。そして一部を右七部落に占有使用せしめ、その大部分は本村郷分が占有管理してきた。

二、本村郷分では慣例として、毎年正月一五日に氏神様である多気坂本神社で郷分総会が開催せられ(また必要のある場合には臨時総会を開く)、前記山林等の財産の管理、立木の売却、その代金の分配、税金の支払い、多気坂本神社の神官の給料等、本村郷分関係事項を決議し、かつ扱人と称する代表者を選挙し、扱人は郷分の七部落選出の部落総代の協力を得て、本村郷分代表者として総会決議事項を執行する。

以上のことは、昔からの慣行として行われてきて、現在も行われている。

三、昭和三六年三月一日(旧正月一五日)の総会で前記本村郷分の管理する本件山林中係争立木を売却する決議がなされ、同年三月二〇日競争入札をもつて売却する事を定めて、安芸市及び室戸市方面の木材業者に広く広告した。そして当日竹崎権之進で部落総代等の立会の下に売却しようとしたところ、被告広末亀太郎、同柿内作馬両名は相謀り、竹崎方に集まつている買受希望者の面前において、被告広末が告示した売却禁止という意味の紙片を示し、かつ「お前等はこの山を買受けても、おれ等の山林であるから売らんぞ。」と暴言を吐き、売却を妨害した。

そのため、入札希望者も、被告等の言葉に不安を抱いて、入札するもの少数で、入札の結果金八五五万円で有限会社丸仁商店の落札するところとなつた。

四、原告は立木の見込価格を、金一〇〇〇万円位と予想していたので、金二〇〇万円の低い価格で売却する事となつたわけである。

落札者丸仁商店代表者も、入札者が少数であつたので、そのため金二〇〇万円位安く買う事ができたともらしていた。

五、右の次第であるので、原告は被告等の不当な行為により、得べかりし利益を喪失したから、その損害として金二〇〇万円並びにこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和三八年七月四日より右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ。

第二(被告等の申立)

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに被告等敗訴の場合には保証を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

(被告等の答弁)

一、原告の請求原因第一項中、旧郷分七部落が本村郷分と称し、山林を所有せる事実は争わないが、その面積並びに該山林の占有使用の状態についてはこれを争う。

二、第二項の事実は認める。

三、第三項中、

(1) 昭和三六年三月一日本件山林の係争立木を売却する決議が適法に成立したることは、否認する。

(2) 前項地上立木につき、同年三月二〇日竹崎権之進方において競争入札による売却をなさんとしたる事実は、争わないが、被告等が該競売に異議を述べたのは、本件山林が原告部落の所有ではなくて、被告広末亀太郎及び被告柿内作馬の長男柿内之義を含む安岡朝治外一九五名の共有にかかるものであつて、原告部落の決議による処分は許諾し難いので、被告広末亀太郎は所有者本人として、また被告柿内作馬は所有者之義を代理して、売却処分に異議を述べたのであつて、暴言暴挙に出たことはなく、共に適法なる権利保全の手段に外ならない。従つて、被告等は前記競売の結果に関する損害を賠償する責任はない。

(3) なお前記係争立木が、有限会社丸仁商店によつて、代金八〇〇万円をもつて買受けられた事実はこれを認める。

四、請求原因第四項の事実は、これを否認する。

五、仮りに被告等に賠償の責ありとするも、損害の数額を争う。

第三 立証(省略)

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